第3話 もう止められない

春の陽気に似あわない電話をかけて来たのは、仁ちゃん。

ただ癌と言われても現実にどんな病気かは分からない。もうその時の時代は、

癌は怖くないとか治る病気と言われるようになっていたから・・・。

2週間後、病院へお見舞いに行った時など、すっげー元気で

“なんか小便飲まされてんだよー”とジョー談まじりにお茶のような飲み物を

見せては、たわいも無い話をしていた。

だけど、正直覚えていない。

心だけ何処かに置き忘れてきたように、ただ時間が淡々と流れていたから・・・。

 5月下旬。あれ以来連絡はとっていない。病院へも行って良いものか、迷惑

なものか良く分からずに、繋がらないと思いながらも、なんとなく電話してみた。

予想とは違い繋がった。

“おう!どしたよ?”    “退院したんすかー”

目の前が一気に明るくなった。今までの寂しさが嘘のように一気に弾け飛んだ。

そして言われた

“なかなか行ってやれなくてわりーなー、けど良くなったらケンジ達誘って

行くからよー、それまでお店やっておけよ”

こんな状況になってまで僕の心配。情けないなーと思う半面嬉しかった。

  7月中。電話をかけたけど、繋がらない。あー入院したんだー。手術でき

るようになったのかなー?妄想が不安と期待を戦わせる。

 8月16日くらいだったと思う。小山の花火大会。ちょっと脇道にそれた所に

ポツンと光る一軒の雑貨屋。何気なくお店を覗いて見た。

すぐに目に入ったのがエルビス、プレスリーの人形。仁ちゃんはエルビスが

大好きで大好きで、何かと言えば酒の肴にエルビスの話を聞かされていた。

正直イイ迷惑だったけど・・・。これプレゼントしたら、少しは元気出るかな?と

思い、手にした。

“12000円、あっ無理”そう思いお店を後にしたけど、後味悪かった。

8月20日ケンちゃんから一本の電話

“今日午前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・”

言われた瞬間に分かった。涙は出なかった。ただ世界が止まると言う言葉の

意味を初めて実感した瞬間だった。

夜、寝ている仁ちゃんにティッシュでもネジネジして鼻くすぐってやろうかと思っ

た。けどそんな風に馬鹿をやればやろうとする度に仁ちゃんの笑顔が出てきて

もうボロボロだった。馬鹿話を書いたらそれだけで、何ページ必要になるか分

からない程、いつもいつも馬鹿をやり続けた仁ちゃんはもう起きてくれない。

そして怒ってもくれない。笑ってくれない。酔っぱらってくれない。歌ってくれない。

大勢のカエルも泣き続ける中、まっちゃんに言われた。

“仁ちゃんが、どれだけおめーの事かわいがってたか、分かるよな?だったら

一生店つぶしちゃ駄目だぞ、頑張ってくれよなー”

きっと、まっちゃんもぱかぱかに仁ちゃんを重ねていたかったのだろう。

“大丈夫っす。オレもう止めれないっす。だって仁ちゃん来るところ・・・。”

今ではつまらない約束しちったと後悔している(大涙)

だって、あの約束が無かったら、僕はお店が苦しくなった瞬間、楽な道に

逃げ出していたもの。今でも、あの後飲んだターキーの空ボトルに仁ちゃんの

名前が刻まれ、ボトル置きの片隅で静かに、このお店を見つめている。

と、思いたい。

 

続火曜日 第4話 継続とは何ぞや